1ミリは五厘・院内床屋にて

自分が今行っているような化学治療を受けている患者は、抗がん剤の副作用で髪が抜けてしまうため、そして点滴治療のため髪が洗えなくなってしまうため、丸刈りにしてしまうことがオススメらしい。
検査等もひとまず落ち着いた今日、先生の許可をもらって病院内の床屋に向かった。さすが大病院の中の床屋だけあって、パジャマで点滴姿の客にも、化学治療で丸刈りを希望する客にもなれているようだった。

「どれぐらいの長さにする? 1センチ? 5ミリ? 1ミリ?」
陽気な主人に注文を聞かれたものの皆目見当がつかない。オススメでお願いします、と答える。
「じゃあ1ミリにしますか」
やがて、バリカンの音がうしろから響いてきた。
そういえば、昔から床屋のたぐいは苦手だった。どんな感じにします?と聞かれるのも、切っている最中に世間話を振られるのも。今まで長めの髪にしていたのも、床屋がめんどくさい、というのがその一因だった。
バサッ、バサッ、と髪の毛が床に散っていく。髪が落ちるたび頭が軽くなっていくのが自分でもわかった。カットは5分ほどで終了。予想以上に短くなっているのに驚く。1ミリってかなり短いですね、と主人に聞いてみると、
「昔で言う五厘刈りだからね」
との答え。なるほど……。

それにしても坊主頭なんて中学生以来だ。鏡でしみじみ眺めているうちに、小さいころ頭の形のことでずいぶんといろいろ言われたことを思い出す。どうも自分の頭の形は、けっこう他の人と違うようだ(婉曲的表現)。そんなことを考えるていると主人が一言。
「お客さんの頭、日本人離れしてるねえ」
大きなお世話です。