寝たきりネットラジオの日々

「食事とトイレ以外は仰向けになって目をつぶっているように」
手術を担当した眼科医からの厳命だった。
それにしたがうと、自然とやることは限られる。音楽か、ラジオか、ドラマCDか。中でも重宝したのはネットラジオだった。好きなときに好きなものを好きなだけ聴けるのは大きい。
アニメも面白かった『関東図書基地 広報課』は、男子パートも含めてつい全部聴いてしまった。沢城みゆきの「野菜にドレッシングかけるのはダメ、素材を味あわないと」的な発言にはさすがベジタリアンだなと納得。
とは言え、ずっと寝たきりでいるのは精神的にも肉体的にもつらい。こんな日々が月曜まで続くのかと思うとさすがに気が滅入った。


話は二週間ほど前にさかのぼる。
あずまんがの大阪の言うところの「目の中のゴミ」、いわゆる飛蚊症のほとんどは病気ではない。だが、ゴミが突然増えたら要注意。目の中に何か異常が発生している可能性があるからだ。
自分の場合もそうだった。ある日、右目の飛蚊の量が急に増えたのだ。病院内の眼科で検査してもらったところ、病名は「網膜裂孔」。網膜の一部が裂けて、硝子体に血が漏れているらしかった。よく聞く網膜剥離の一歩手前の状態らしい。
ちなみに、白血病との関係は特になく、自分のような強度近視の人に起こりやすい症状という話だ。それにしても、わざわざこんな時期にかぶるとは……。


病院内の眼科では処置の判断が難しいらしく、専門病院に紹介されることになった。
網膜裂孔・網膜剥離を治す手術の種類は、症状によって三種類に分けられる。「光凝固術」「網膜復位術」「硝子体手術」。順に、面倒な手術になり、入院期間が長くなる。今のところ白血病はやや安定状態ではあるものの、さらに大変なことになるのはカンベン願いたいのが正直なところだった。
外出許可をもらい、兄の車で専門病院へと送ってもらう。高級感のある待合室でしばし待ち、診察室へ。専門医の判断は、「網膜裂孔のまわりをレーザーで固める光凝固で大丈夫でしょう」というものだった。光凝固=レーザー処置は入院の必要がない。ひとまずほっとした。


処置はそのまま専用室へ移って行われた。部屋の中央には意外に小さめなレーザー照射器。先生と自分とがそれを介して向かい合う。右目に麻酔点眼薬をかけて固定用コンタクトを装着、先生が狙いを付けてレーザーを網膜へ打ち込んでいくかたちだ。
レーザー自体は特に痛いものでもなく若干まぶしい程度なのだが、先生の言うとおりに視線を固定するのが難しかった。「上向いてくださいね」と言われて上を向こうとするも、つい眼球をぐらぐらさせてしまい、コンタクトが外れてしまう。そこで思い出したのが、「執着……ダメ」という僕の小規模な生活(1) (KCデラックス モーニング)の悟りの名台詞。マンガの内容などを思い返しつつ何とか乗りきった。
その後、冒頭の注意がなされた、というわけだった。なんでも、網膜と硝子体をうまく癒着させるためには欠かせないことらしい。次の7月7日の検査までは全力で仰向けに寝続けることとしよう。