神山高校古典部シリーズ

氷菓 (角川文庫)

氷菓 (角川文庫)

愚者のエンドロール (角川文庫)

愚者のエンドロール (角川文庫)

クドリャフカの順番 (角川文庫)

クドリャフカの順番 (角川文庫)

遠まわりする雛

遠まわりする雛

  • かったるそうな主人公、清楚で好奇心が強いお嬢様、毒舌家の女友達、やたら情報に詳しい親友……思わずそれなんてエロゲ?と聞きたくなる設定だが、その実は青春ミステリー小説。もちろんHシーンがあるわけじゃない。そこにあるのは甘美な謎解きのエクスタシーだ。
  • 神山高校の古典部を舞台とした米澤穂信の手になるシリーズ。第一作から第四作までがリリースされている。
  • まずキャラ立てがうまい。「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことは手短に」をモットーとする省エネ主義の主人公・折木奉太郎はじめ、それぞれのキャラにポリシーがあり、考えがあり、悩みがある。ありきたりな表現を使えば、キャラに深みがある。
    • それが特徴的なのがシリーズ第三作『クドリャフカの順番』。4人のキャラそれぞれの第一人称で語られるストーリーを積み重ねて話は展開していく。なるほど、各人は普段こんなふうに思っているのか、という。
  • そして謎の立て方もうまい。殺人があるわけでもない、重大事件が発生するわけでもない。33年前の古典部に起きた出来事を追う、未完成のビデオ映画の解決を探る、なんて、一見地味ながらリアリティのあるテーマに読む側はどんどん引き込まれていく。
  • 持ち寄られた手がかりを元に、論理的な推理を重ねていく主人公。読む側にとっては想像もつかない、しかしたしかにその通りだとしか思えない真相が明らかにされていく。
    • 第四作の短編集『遠まわりする雛』に収録された『心当たりのある者は』の謎立てはこうだ。ある日放課後に突然流れた校内放送、「十月三十一日、駅前の巧文堂で買い物をした心当たりのある者は、至急、職員室柴崎のところまで来なさい」。たったこれだけの情報を元に、いったい誰が、なんのために、どういう背景に放送がなされたか、推論を重ねていくのだ。そして辿り着いた結論とは……。
  • 安楽椅子探偵、というジャンルらしい。
  • 主人公たちとともに謎を追っていく初読が面白いのはもちろんのこと、真相が分かって読む再読もまた面白いのが困る。今回レビューめいたものを上げようかとパラパラとめくりはじめて、結局4冊通して読んでしまった。
  • というか、こういう質の高い作品こそアニメ化するべきじゃなかろうか。今で言うとノミタイナ枠あたりが適当か。1クールとなると『氷菓』と『愚者のエンドロール』をあわせていくか、となるとシリーズ名は別途考えないとまずいな。『神山高校古典部事件簿』ではいかにも地味すぎるか……と妄想はこれぐらいにしておいて。
  • 妄想といえば、キャラ同士の関係性に想像が入り込む余地があるので、ここはひとつ百合系で考えてみるのもアリだろう。王道は摩耶花×ちーちゃんか。古典部同級生カップルということで、恋に悩む摩耶花をなぐさめる、的な。しかしここはあえて、千反田×入須を押したい。ものの頼み方を教えて下さい!のノリで、わたし、入須さんのことが気になります、と迫っていくわけだ。
  • あえて言うと萌えが若干足りない、色恋沙汰要素が薄い、というのはあるかもしらんが。これはこれで全然問題ないと思われ。千反田えるは充分萌えキャラだろう。
  • ライトノベルになれてると、ビジュアル要素が全くないのも取っつきにくいところ。みんなそれぞれに描いてるキャラ像には結構な差がありそうだ。そういう意味で、現在の角川文庫版に先がけて刊行されたというスニーカー文庫版は、機会があればぜひ一度見てみたいものだ。
  • ちなみにこのシリーズはK先輩からの借り物。最初、読んだのが文庫版の『氷菓』『愚者のエンドロール』の2冊。「このシリーズ面白いけど2冊しかないのか、残念。だけど同じ作者だしこっちも面白いんだろうな」と手に取ったソフトカバーの『クドリャフカの順番』『遠まわりする雛』も古典部シリーズと分かったときの喜びようといったらなかった。なるほど、普通の本ってたしかに大判本が出てから文庫になるんだよな……。
  • シリーズのどれが一番面白いか、と問われるとかなり悩む。劇中劇の謎解きという時点でメタだが、それをちゃぶ台返しする『愚者のエンドロール』にもたまげたし、文化祭の喧噪とそれに距離を置いて地学講義室で過ごす主人公に共感する『クドリャフカの順番』もいい。時を追って微妙に変化していくキャラを描く短編集『遠まわりする雛』も読みどころ満載だ。だけどやはり、一作目の『氷菓』か。ジャブ的な謎解きを重ねて大きな謎を解き明かしていくスピード感のあるストーリー。タイトルに込められた思い。処女作でこれなのか……。
  • 続編がいつ出るのか、わたし、気になります