【day+8】無菌室探訪


おはようございます。今日の建もの探訪は、病院の中にありながらなかなか知ることができない無菌室をご紹介します。さて、どんな空間が待ってるのでしょうか?


「失礼します」
ご主人に案内されたお部屋の大きさは約6畳。緑のリノリウムの床と白い壁、そして東西に取られた大きな開口部が、部屋の狭さをやわらげています。
そして、奥の壁一面にはパンチングメタル。ここに大型のファンが内蔵され、場合に応じて風をながすことで、空気中にただようホコリやチリの量を調整しているそうです。


「家具や内装なんですが、コンパクトにまとめられていますね」
電動ベッド、TV、冷蔵庫、収納棚といったリビングスペースから、トイレ、洗面、シャワーという水回りまで、この一部屋の空間に見事に集約してあります。
「水回りでしたら、スリーインワンなんて言いますが、これはさしずめセブンインワンですね」


中でも驚いたのが、TVとシャワーを一体化したシステム。TVの前の大きめの収納壁を開いて、カーテンをセット、洗面所のシャワーヘッドを持ってくることで、半畳ほどのスペースにシャワールームが出現するのです。
「無菌室、いかがでしたか。機能性を詰め込んで、なおかつ快適さを失わない、まさに病院の中のVIPルームと言えるんじゃないでしょうか」

ベッドの隣にトイレ


というわけで、某番組風に紹介してみようと思いましたが、気力が尽きたのでこの辺で。無駄に見取図と鳥瞰図も作ってみました。


そもそも無菌室とは、空気中のホコリやチリをできる限り取り除いて、無菌に近い状態にした部屋のことです。造血幹細胞移植を受ける患者は、前処置などで免疫力がほぼゼロになり、感染が起こりやすくなります。そのため、患者は無菌室に入り新しい細胞が生着するまでの日々を過ごします。生着し、白血球が回復したら放免となり、一般病棟に移ります。



面会は窓側に面会者用通路が用意されており、ガラス越し・インターフォンでの会話になります。
ただ、差し入れは自由ですし、持ち込む荷物に特に制限もありません。ファンの音も気になるほどではなく、むしろ準無菌室のほうが音は大きいぐらいです。
手元のスイッチで照明を一括コントロールできたり、ベッドが電動で背もたれを簡単に起こせたり、手の届く範囲に必要なものを置けたりと、狭いながらもこれはこれで便利なところもあったりします。


当初面食らったのは、ベッドのすぐ隣にトイレがあることでした。仕切りもないので、用を足すには窓側と入口側のブラインドを閉めてからになります。嘔吐や下痢が続くときはありがたいんですが。
また、使うものは消毒をする、床に落ちたものは手で拾わない、飲物は必ずコップに空けて飲み、24時間以内に飲めなかったものは処分する、など細かい決まりもあります。ぼくの場合は、今年で2回目ということもあり、いろんな意味でなれてしまいましたが。

【day+6】血糖値が気になるお年頃

血糖値測定

それはday-3、10月26日のこと。
朝、血液検査にきた看護師さんとの会話で、衝撃の事実が明らかになった。


「今って、のど渇きます?」
「ふつうに乾きますけど……」
「特別乾きます?」
「特別? ふつうですかねー」
「血糖値385もありますよー」
ええっ!
そんな、385って言ったら、もう糖尿病の域じゃないか? いつの間にそんなことになってたんだ……。しかも移植を控えたこの時期に、ちょっとこれ、どうなってんだ?


周囲に糖尿病&予備軍の人が多いだけに、そのおそろしさは先刻承知だ。血液・血管系にも大きく関わってくるし、今の症状や治療とも無縁ではいられないだろう。ただでさえ、予後因子がよろしくないのにさらに血糖値とは……。
たしかにここのところ、熱が出た時にはスポーツドリンクや100%ジュースを多飲していた。ジャンクな間食も取っていた。運動不足は言わずもがなだ。それにしたって、こんなに急激に上がるもんなのだろうか。


昼前の回診で、先生から説明があった。

  • 血糖値が急激に上がったのは、熱冷ましのソルコーテフと抗がん剤の影響だと思われる
  • こちらも定期的にチェックはしていたが、数値の変化が急で驚いている
  • ただ、あくまで薬が原因なので、徐々に下がっていくはず
  • 当面、血糖値の検査とインシュリンの投与を続けて様子を見ていく

糖尿病患者の日課

ということで、「間食と糖分を含んだ飲物の禁止」の通達に加え、「一日三回の空腹時血糖値の測定」とそれにともなう「インシュリン投与」の治療方針が告げられた。
突然の飲食制限。指先にプスっと小さな穴を開けて、その血を機械で測る血糖値測定。値に応じてインシュリンを皮下注射。いかにも糖尿病という治療は、身体へのダメージ以上に、精神的にくるものがあった。


その後移植を経て血糖値は上下し、今では100〜200台に落ち着いている。インシュリンも、ポンプを使って点滴ルートから入れるようになったので、その意味ではラクになった。うまくいけば、治療が終わるころには正常な血糖値に戻っているかもしれない。


しかし糖尿か……。日記タイトルじゃないけど、ますます更年期っぽくなってきたな。ちなみに、尿から甘い匂いはしなかったです。

【day+4】VAIO買いました(その1)

VAIO

何も生みだしてないゴクツブシの身でどうなんだろう、だいたい今のパソコンまだ使えるのでは、それにWindows7がもう出るっていうのにVistaモデルってのはなあ……などと多少のためらいはありつつも、VAIO type A(20万超)、買ってしまいました。動機はこんなところ。

  • 病室で地デジが見たかった
  • ブルーレイをフルHDで見たかった
  • Windows7マシンが欲しかった
  • 単純にパソコンを新しくしたかった
  • 無菌室でのひまつぶし用
  • 臍帯血移植・Newパソコンと一緒に、自分も生まれ変わる(こじつけ)

SonyStyleのOUTLETで10月11日注文。
戦略的衝動買いではありましたが、なんていうか、ニューマシンを買っての、ドキドキ、ワクワク、高揚感を味わえただけでも買った価値はあったというか。ここ最近、こういうのなかった気がします。


到着は、意外に速い10月16日到着。
開封しての第一印象は「デ、デケェ!」。事前に想像はしてたものの、新聞2つ折り程度の面積はかなりインパクトがあります。広げて作業してると、看護師さんからも「大きいですねー」と話しかけられたり。


写真右のThinkPadも15インチで決して小さくはないんですが、VAIO(18.3インチ)の大きさとくらべると……。考えてみれば、ちょっと前まで液晶ディスプレイのサイズは15インチだの17インチだのが主流だったわけで、それがノートに載るんだから技術の進化は大したもんです。


Vistaで使うつもりはないので即、Windows7アップグレードディスクを申し込み。本格的なセッティングは、7に入れ替えてから行う予定。というわけでこの項つづきます。

【day-0】臍帯血移植当日

臍帯血

よくある誤解だが、骨髄移植や臍帯血移植では手術などの外科的療法を行うわけではない。手術室に入って、麻酔をかけて、骨髄を切ったり貼ったり……ということはなく、無菌室に入って、ドナーさんの造血幹細胞(骨髄・臍帯血)を点滴で入れていく。
なので、「移植」自体はよっぽどのことないかぎり失敗することはない。峠をひとつ越えた、とは言えるが、まだまだ越えなければならない峠は多い。


今回のぼくの場合は、写真にあるような注射器が2本、ここに凝縮された臍帯血が入っており、それをCVルートから注入した。先生が手ずから行ったが、時間にして30分弱ぐらいだった。
体調としては、臍帯血移植終了後も比較的良好。
「今までもほとんど血球なかったわけだしそんなに変わらないでしょ」
とのよくわからない先生のはげましもあった。食事もなんとか取れている。できるだけいい状態を続けたいものだ。

さらなる峠

一寸補足。
このあとに待ち受ける峠はいくつかあって、順序としてはうまくいけば、

  1. 感染症や合併症にならずに、生着まで過ごす
  2. ドナーさんの臍帯血が無事に骨髄に生着する
  3. 血球が回復する
  4. 新しい骨髄が活動を開始して悪い細胞を撃滅させる

という感じになる。
北海道もそろそろ冬、札幌でも初雪を記録した。スタッドレスタイヤのCMも増えた。なれない峠越えは事故りやすい。慎重を期して進むことにしよう。

【day-1】前処置の日程終了

10月29日からはじまった臍帯血移植前の前処置の日程は、今日の全身放射線照射(TBI)をもって終了した。
造血幹細胞移植に先だって行われる「前処置」とは、移植前にあらかじめ大量の抗がん剤を投与、また放射線を全身に照射することで、患者の骨髄をカラの状態にしておく、ドナーの細胞を生着させるための欠かせない過程だ。
前処置をどの程度の内容、強さで行うかは、年齢や体調、移植の種類によっても異なる。


今回、ぼくの場合は1年に2回目の移植とあって強い放射線を使えないこと(1年に浴びられる放射線の量は決まっている)、再発なので新たな抗がん剤の組み合わせで行くということで、

  • フルダラ6日間、ブスルフェクス3日間
  • 放射線照射1日間(2Gy)

のスケジュールが組まれた。先生の話によれば、
「ミニ移植というよりももう少し強い、フルに近い移植になる」
ということだった。


移植患者にとって、この前処置というのは大きなヤマだ。今までにはありえないダメージが短期間に集中するので、今まで平気だった人もさすがに参る。
初回を思い出すと、ぼくもひどいものだった。頻回の下痢、嘔吐、抗がん剤の副作用と思われる痙攣、不眠ほかで、食事も取れなくなった。


では今回は、というと例によって良くも悪くも副作用は少なかった。事前にかなり脅されていたことを思うと、ちょっと拍子抜けしたくらいだ。なんでも、
「この薬はちょっと前まで経口のものしかなかったんだけど、点滴で落とせるようになってずいぶん楽になったんですよ」
とのことらしい。
放射線も前回の12Gyを思えば6分の1の量の2Gy。身体がほんのり熱くなる程度で、放射線治療室まで歩いて往復できた。


そして、ついに明日が移植となる。
緊張だったり、不安だったり、希望だったり、楽観だったり、いろんな気持ちがまぜこぜになっている。ただまあ、ここまでくると、なんとかなるだろ、という楽観が占めている。そう思うしかない、という部分もあるのだけど。

【day-9】 再移植前のカンファレンス

当日9日前の午後には、2度目の移植を前にしてカンファレンス(医者・看護師・患者・家族が参加しての説明会)が行われた。


今回は、骨髄繊維化、骨髄異形成症候群、散発的な熱(感染症)、非寛解状態での移植、と不利な条件がいくつもあり、リスクも大きい。
前回は「成功する確率は半々です」だったが、今回はもっときびしいようだ。鶴岡の打率(意外性にかける)なみというか、来期コンサがJ1に上がれる確率(あると思います)というか。


カンファレンスのあと、先生が部屋まで来て若干フォローしてくれた。
インフォームドコンセントでは悪い方の話しかできないが、ぼくたちは良くなる方法をみんなで考えて提案している」
「今造血機能はほとんど動いてないが、むしろそれはいい面もある」
「骨髄繊維化に関してもこれでうまくいくことを考えている」


一言一言がありがたかった。患者的にはよく言われるように0か1の結果しかない。そして先生や看護師さんは、よくなることを考えてフォローしてくれる。ここまで来たら、ぼくはまっとうにそれに立ち向かっていくしかないだろう。

【day-11】 次兄の結婚式

花束とパンフ

ヒゲを念入りに剃る。ひさしぶりにパジャマを着替えてスーツ姿になる。ネクタイの結び方を忘れていてあわてる。革靴を用意する。お気に入りの毛糸の帽子をかぶる。電話が鳴る。もう迎えの車が来たようだ。
ナースステーションに外出届を出す。理由欄には「兄の結婚式出席のため」、時間は「13時から18時」。「いってきます」とあいさつすると、「気をつけてね」「ムリしないでね」と口々に声をかけてくれる。軽く会釈をして、エレベーターに急いだ。


【day-11】。
移植当日をday0とし、その前日をday-Xで、その後をday+Xで示す方法で、移植スケジュールの標準表記として使われている。
つまり、今日は当日の11日前、臍帯血移植は10月29日に行われることになった。1年に2回、造血幹細胞移植を受ける人もそう多くはないだろう。


無菌管理がきびしくなるこの時期、一向に熱が治まらない体調。本来なら外出許可は出るはずもなかった。しかし、「できるだけそういうイベントに出るのには協力したい」という先生の言葉もあり、いくつかの条件を満たすのなら、ということでお許しが出た。
当日は点滴スケジュールを大幅に変更、朝6時に強力な解熱剤・デカドロンを点滴、抗生物質のスケジュールなども繰り上げ、さらには本来午後にしか配送されない血小板の輸血を行ってから、万全の体制で挑むことができた。
当日が近付くにつれて、声をかけてくれる看護師さんも増え、なにか、みんなが応援してくれてる気がした。ほんとうに先生や看護師さんには感謝と言うしかない。


結婚式は、当人二人と家族だけのこぢんまりした人前式で、あたたかくいい雰囲気のものだった。
コース料理もほどよく、病人でもいろいろと食べられるものがあったのもありがたい。ふだんの病院では絶対食べられない料理に、ここはハレの場なんだな、と実感した。
新婦のお母さんから、「病気で入院大変でしょう」と振られたのには一瞬詰まったが、「いやまあでも、大丈夫、治りますよ」と答えた。むこうはこちらのくわしい事情は知らないし、おめでたい場でもあるし。


式の終了後、新郎新婦にあらためて「おめでとう」と声をかけて病院に戻る。ふだんまったく運動していないだけに、さすがに病室に戻ると疲労困憊だった。残りの点滴も詰まってる。病院のユニホーム、パジャマに着替えるとしよう。