【day-11】 次兄の結婚式

花束とパンフ

ヒゲを念入りに剃る。ひさしぶりにパジャマを着替えてスーツ姿になる。ネクタイの結び方を忘れていてあわてる。革靴を用意する。お気に入りの毛糸の帽子をかぶる。電話が鳴る。もう迎えの車が来たようだ。
ナースステーションに外出届を出す。理由欄には「兄の結婚式出席のため」、時間は「13時から18時」。「いってきます」とあいさつすると、「気をつけてね」「ムリしないでね」と口々に声をかけてくれる。軽く会釈をして、エレベーターに急いだ。


【day-11】。
移植当日をday0とし、その前日をday-Xで、その後をday+Xで示す方法で、移植スケジュールの標準表記として使われている。
つまり、今日は当日の11日前、臍帯血移植は10月29日に行われることになった。1年に2回、造血幹細胞移植を受ける人もそう多くはないだろう。


無菌管理がきびしくなるこの時期、一向に熱が治まらない体調。本来なら外出許可は出るはずもなかった。しかし、「できるだけそういうイベントに出るのには協力したい」という先生の言葉もあり、いくつかの条件を満たすのなら、ということでお許しが出た。
当日は点滴スケジュールを大幅に変更、朝6時に強力な解熱剤・デカドロンを点滴、抗生物質のスケジュールなども繰り上げ、さらには本来午後にしか配送されない血小板の輸血を行ってから、万全の体制で挑むことができた。
当日が近付くにつれて、声をかけてくれる看護師さんも増え、なにか、みんなが応援してくれてる気がした。ほんとうに先生や看護師さんには感謝と言うしかない。


結婚式は、当人二人と家族だけのこぢんまりした人前式で、あたたかくいい雰囲気のものだった。
コース料理もほどよく、病人でもいろいろと食べられるものがあったのもありがたい。ふだんの病院では絶対食べられない料理に、ここはハレの場なんだな、と実感した。
新婦のお母さんから、「病気で入院大変でしょう」と振られたのには一瞬詰まったが、「いやまあでも、大丈夫、治りますよ」と答えた。むこうはこちらのくわしい事情は知らないし、おめでたい場でもあるし。


式の終了後、新郎新婦にあらためて「おめでとう」と声をかけて病院に戻る。ふだんまったく運動していないだけに、さすがに病室に戻ると疲労困憊だった。残りの点滴も詰まってる。病院のユニホーム、パジャマに着替えるとしよう。