リハビリをはじめた

きっかけは、看護師さんとの何気ない会話だった。
「最近、なにか困ってることありませんか?」
「そうですね、全然運動してないんで体がなまってるなー、ってのはありますけど」
「じゃあ、そろそろリハビリはじめましょうか」
そんな話の翌日、いつものようにウトウトしていた午後、リハビリ室からのいきなりの呼び出しには少々驚いた。ずいぶん対応早いなぁ、と。


さて、リハビリというとどういうものを想像するだろう。平行棒につかまって歩行訓練、ヒザや腰のマッサージや治療、軽い負荷での筋力回復トレーニング、といったところだろうか。
しかし、自分の場合、歩けない、ヒザが痛い、といった不具合は今のところない。まずはインストラクター(理学療法士)さんの指示に従って、握力の検査やら片足バランスのチェックやらをひととおりこなす。その後、
「特に悪いところはないみたいですし、退院にむけての体力作りをやっていきましょう」
ということで組まれたのは、少々(?)ハードなメニュー。


ニーグリップ片手20回ずつ、寝た状態からの腰上げを20回、腹筋20回、チューブで縛っての開脚運動20回、2kgのアンクルウエイトをつけての片足上げを20回ずつ。その後は、バランスボードを30秒目標で、最後に、エアロバイクを負荷1kg・脈拍数120目安で20分こぐ有酸素運動


ふだんは、ベッドとトイレを往復するぐらいしか運動していない自分にとって、これは効いた。しかもインストラクターさんがたえず声をかけてくれるので、さぼるわけにもいかない。リハビリ、というよりもジムにでも行っている感じだ。
とはいえ、体育は苦手だけれど体を動かすのはキライじゃない。ほっとけば、1日パソコンかTVに向かってる自分にとっては、いい気分転換にもなる。血液内科病棟では見られない、いろんな患者さんがいるのも興味深い。病院内で行けるジム感覚で、しばらく通ってみることにしよう。

サイトメガロウイルスに陽性反応

移植後の患者はいろいろと気をつけなくてはならないことが多い。中でもその筆頭にあげられるのがサイトメガロウイルス(CMV)だ。
このウイルスは、そもそも多くの人がもとから身体に持っている。だが、骨髄移植後は免疫抑制状態になり抵抗力が下がる。するとウイルスが活性化してきて悪さをはたらく、というわけだ。
移植後患者がよくかかる症例で、ご多分に漏れず自分も先日の血液検査で陽性反応=クロが発覚した。


まあ、ともかくこうなった場合、抗ウイルス剤のデノシン(GCV)という点滴を1日2度投与して、CMVの撲滅をはかることとなる。あわせて看護師さんからもらった、CMVの症状とGCVの副作用について書かれてあるメモ的なガイドには、なかなか興味深いことが書かれていた。

CMV肺炎 〜 発熱、呼吸困難、乾性咳嗽(がいそう)
CMV膀胱炎 〜 排尿病、残尿感、血尿
CMV胃腸炎 〜 悪心、嘔吐、食欲不振、腹痛、下痢
CMV網膜炎 〜 視力低下、視野暗点
CMV肝炎 〜 GOT、GPT
GCVの副作用 〜 骨髄抑制(白血球、血小板の低下)、肝機能障害、浮腫、嘔気、筋肉痛、頭痛


これだけ見ると、各方面に悪影響を及ぼす強力なウイルスで、恐ろしいとしか言いようがない。
とはいえ、「CMVは昔より早期発見ができるようになりました。適切な処置を行えば、そんなに心配することはないですよ」というのが先生の話だ。自分も陽性反応は出ているものの、自覚的な症状は特にない。早いところ点滴が効いて、シロ=陰性反応=になってくれることを祈ろう。

フルメニューな食事の開始

ようやく下痢も治まりつつあり、腹具合も落ち着いてきたここ最近。通常の食事に戻してみませんか、という提案があったので一も二もなくそうしてもらった。


高カロリー輸液の点滴を受けて栄養を補給、メシは何も食べない、というのはなかなか不思議な状態で、「腹は減らないの?」というのはよく聞かれる。そんなときに返すのは「肉体的には減らないけど、精神的には減るかな……」という答えだ。たしかに栄養を取るという点では肉体的に満たされているのだけれど、精神的にはやはりなにか食べたい、という思いは残る。テレビのグルメコーナーなどは目に毒だ。
メシを食べてもいないのに、大の方が毎日出るのもちょっと意味がわからない。どこから来てるんだろう、これは。


ともあれ、まずはお粥かゼリーあたりからはじまるのかな、と思っていたら、出てきた朝食はご飯に味噌汁、焼き魚に漬け物、味付け海苔のフルコース。2週間以上何も食べてなかった身としては、さすがに驚いた。大丈夫かよ、とおずおず箸を付けたところ、意外とイケるもので、ごはんを若干残した他は無事完食できた。
ちなみに、骨髄移植した人によく起こる味覚障害だが、自分の場合は特に症状が出ていないようだ。お菓子は甘いし、味噌汁はしょっぱい。100%移植前と味覚は同じか、と問われると微妙なところだが、ごはんがおいしくいただけるのはありがたいかぎりだ。

無菌室からの解放

というわけで、なんとか骨髄移植も完了し、先日、無菌室から一般病棟(クラス10000の部屋)へ移動とあいなりました。ここ一ヵ月あまり、身体がこんがり焼けたり、激しい口内炎になったり、モルヒネ漬けになったりと、いろいろなことが起こり。このあたりはまた後日、くわしく記したいと思います。


現状は、先生の話によると「順調に来ています」とのこと。散発的な発熱やら、下痢の連鎖やらで、いまだにメシは食べられず栄養点滴の状態ですが、体調的には徐々に回復してきているのが自分でも分かります。
マルク(骨髄穿刺)の結果、移植した骨髄は無事生着した模様。今、僕の身体を流れている血液はドナーさんの骨髄で作られたもの、というのはなかなか不思議な感じがします。


とりあえずのご報告まで。励ましのメッセージ、元気づけられました。ありがとうございました。

一時退院の終了、そして骨髄移植へ

骨髄移植前の一時退院が終わり、1月25日は病院に再収監の身となった。
2週間弱の冬休み、いろんなことがあった。家族と小樽に出かけ、カニとウニと寿司を食い、友人とジンギスカンを食べ、ダーツ&麻雀を楽しみ、東京へも二泊三日で出かけた。東京では、同僚K氏が焼肉店で盛大な壮行会を開いてくれ、レバ刺しやカルビ、ホルモンを堪能すると同時に、大いに元気づけられた。また、術前検査の一環ということで、耳鼻科、肛門科、眼科の検診も受けるなど、あわただしく日々は過ぎていった。


退院する前に、先生と交わした会話を思い出す。
「どうも僕、一時退院するとちょっとワガママ気味になるんでセーブしとかないと、とは思ってるんですけどね」
「いやいや、ワガママ、充分結構じゃないですか。あれを食べたい、これをしたい、なんてのは人間の根源的な欲求じゃないですか。つまり、生きたい、ということですよ。それを無理に抑える必要はないと思いますよ」
なるほど、と思った。
もちろん、病人だからといって何をやってもいい、なんて考えはよくない。けれど、自分の欲求を可能な範囲で満たしていくのは悪いことじゃない。
オタ生活なんてやってると、毎日には物欲と性欲ぐらいしかなかった。だが今は……。気分は「ライオン」ってところか。

ワン・オア・エイトな骨髄移植

ここからは、白血病患者の最大の峠、骨髄移植の時期に入る。術前検査→準無菌→前処置(放射線&大量抗がん剤)→無菌室へ移動→移植→生着→回復期、という道のりを辿るわけだ。
くわしい骨髄移植についての説明は、このあたりをご参考にどうぞ。

正直、骨髄移植はハイリスクハイリターンな治療法だ。受け持ちの先生からは、「成功する確率は半々です」とのシビアな話があった。
なにより不安なのは、移植後に何が起こるのか、まったく想像がつかないことだ。移植まではなんとか辿り着けるだろう。ただ、そのあとに何が待っているのか……。前処置による副作用もある、感染症もある、GVHDもある、後遺症が残ることも少なくない。「骨髄移植は、移植後からが患者さんの勝負」とも言われるゆえんだ。


僕の場合はMDS(骨髄異形成症候群)からAML(急性白血病)の移行型なので、骨髄移植だけが、治癒する可能性を唯一期待できる治療法だ。ワン・オア・エイト(「一か八か」の意 (C)それ町)にかけるしかない。
というわけで、骨髄バンクとの取り決めで移植日は公表できないこと、体調がどんどん落ちていくことが予想されるため、しばらくダイアリーは書けなくなるだろう。
とはいえ、ここまで来たら、一か八か、半か丁か、赤か黒か、自分が賭ける方はひとつしかない。それではまた、回復したあとにお会いしましょう。

前回エントリーのご紹介に感謝

前回のエントリーは、上記ほか、多数のサイトでご紹介いただきました。ありがとうございました。

入院中のオタ生活に必要なモノは?

先日のエントリー「独身男性・会社員のオタが突然入院したらどうなるか?」に沢山の反響、コメントをいただきありがとうございました。
中でも、「オタ話があんまりない」というご指摘をいくつかいただいたので、そのあたりをもうちょい突っ込んで書いてみます。

入院中のオタ生活ってどうよ? 必要なモノは?

これは、病気の具合、病院の制限によって大きく左右されますが……。
オタ生活に必需品と思われるのは、まず「ノートPC+ネット環境」です。ネット、メール、動画再生、音楽プレイヤー、ネトラジ、各種ゲーム、物書き等々、これがあるとないとでは入院生活に大きく差が出るでしょう。
入院する場合、持ち運びは意識する必要がないので、今流行のネットブックなどより、画面が大きくキーが打ちやすいA4サイズクラスのものが向いています。ネット接続環境は必然的にイーモバイルあたりになるので、「携帯電話使用可」の病院が望ましいです。
同病だった富良野くまりん氏の病院でのPC環境はこんな感じだったようです。自分のところはこんな具合の、2004年型のThinkpadT42+イーモバイル(D02NE)です。若干古いですが、特に性能に不満はありません。


あとは、PSPニンテンドーDSiPodあたりの携帯機器も重宝しています。気軽にはじめて気軽に終われますし、ヘッドホンで使用できるので大部屋でも安心。PSPはメディアプレイヤーとしても活用できます。
持ち込むことが可能なら、PS3PS2Xbox360などの据え置き型ゲーム機もあると、一人プレイはじめ、お見舞い客との対戦にも使えるので重宝するでしょう。
本やマンガは言わずもがな。何度も読み返せるお気に入りのものと、積ん読状態のものを用意しておくとベターです。


一般に入院生活は引きこもりで時間を余しがちになるので、オタなライフスタイルとの相性は悪くないと思います。MGS4戦場のヴァルキュリアといった大作ゲームにチャレンジしてみるもよし、ラノベを一気読みしてみるもよし、気になってたアニメを消化するもよし、久々にプラモを作ってみるもよし。人によっては、病床でマンガを描いたり、動画作成に打ち込んだりする人もいるようです。


ですが、コミケやコンサートのイベント類に行けなくなること、本屋やゲーセンなどの現場に出られなくなることは、幾分かのストレスにはなります。Amazonとらのあな等の通販で病院宛に届けてもらうこともできるので、多少はカバーできるのですが。
また、諸般の事情により、18禁系ソフトの消化の難易度は高くなります。自分もすっかりエロマンガは買わなく(買えなく)なりました。


もっとも、この辺を楽しめるのはあくまで調子がいいときの話。具合の悪いときはそれどころじゃない、というのは言うまでもないです……。

大部屋がいいか、個室がいいか?

東京の病院では大部屋、札幌の病院では個室、という自分の経験からすると、断然個室がいいです。TVやゲーム、PCの音が出せ、見舞いの友人ともゆっくりと話ができ、部屋のカスタマイズもある程度可能。ひとりでのんびりとオタライフを過ごせます。問題となるのは、先日のエントリで上げた「差額ベッド代」。幸い、自分のところはかからないので助かっていますが……。また、同病の人と知り合う機会がほとんどないのも地味につらいところです。

最新アニメはどう追おう?

早寝早起きが基本の入院生活。深夜アニメを実況付きで見る、なんてことは難しくなります。とはいえ、最新アニメはリアルタイムで追っていきたいのがアニメファンの性。なんとかならないか、いくつか手段を考えてみました。

ワンセグ録画
イマドキのケータイには当たり前に付いてるワンセグで録画&再生。しかしこれは、話の筋を追う程度なら問題ないんですが、画質的にはかなりきびしいです。僕はPSPで試してみてあきらめました。動きが激しいものは特にツラいですね。
おでかけ転送+PSP
現在メインで使っている方法です。実家のSONY製ブルーレイレコーダーで予約録画を行い、メモリースティックにおでかけ転送してもらって、PS3PSPで見ています。病室のブラウン管テレビで見る分には画質的にも問題なし。ダビング10の施行で運用も楽になりました。普通にDVDに書き出して持ってきてもらうのもいいでしょう。ただこの場合、予約管理や転送、メディアの運搬を定期的にやってくれる協力者が不可欠になります。
ロケーションフリー
家側と患者側、両方にブロードバンドなネット環境が整っている、という条件付きでこれもアリかと。他人の手をわずらわせることなく、予約設定や好きな番組の再生ができます。難点は初期投資が若干かかること、回線速度に画質が左右される部分があることでしょうか。

他にも、地デジ対応パソコンで録画、病室にDVDレコーダーを持ち込む、なんて荒技もありますが、この辺は病院によって許可してるかどうかは分かれそうです。自分のところの病院ではさすがにビデオ系の持ち込みは無理でした。

頼りになるのはやっぱりオタ友

コメントでもいくつか意見をいただきましたが、入院したときに頼りになるのはやっぱりオタ友です。入院してから、あのケーブルがない、あのマンガを読みたい、コミケであのサークルの本を買ってきて欲しい、なんてことは多々あるもので、自分の部屋からモノを持ってきてもらったり、買い出しを頼んだり、ということはよくありました。そのあたりの知識があって、手間をいとわないでくれる友人縁者はホントにありがたいかぎりです。